性質および化学反応

 フッ素は漢字で「弗素」と書くが、これは常用漢字ではないためカタカナが使用される。元素名の由来は蛍石Fluoriteであり、これは古くから鉱石の融剤として用いられていたため「溶けて流れる Fluere」という意味を持つ。またFluoriteは蛍光Fluorescenceの語源でもある。ただし蛍石の蛍光はフッ素ではなく、微量含まれる希土類に起因する。
 単体は淡黄色を帯びた極めて反応性の強い気体である。最も陰性の強い元素であるため、ほとんどの元素と常温で反応してフッ化物を形成し、キセノンでさえ、化合物を形成する。水とは激しく反応し酸素および二フッ化酸素などを発生する。
 フッ素の単体はその反応性のため、単離することが困難であるが、白金容器を用いてフッ化水素カリウムKHF2の融解電解により陽極に得られる。またヘキサフルオロマンガン酸カリウムに強いルイス酸である五フッ化アンチモンを反応させると、生成する四フッ化マンガンは自発的に分解してフッ素を生成する。
 安定な1価の陰イオンを形成し、フッ化物イオンF-は半径が小さく各種元素との親和力が強い。そのため濃フッ化水素水溶液はガラスを溶解する作用を持つ。またフッ化物イオンはヒドロキシル基とたやすく置換し、またカルシウムイオンと結合し不溶性のフッ化カルシウムを生成するなど、体内での生理作用を阻害するため、フッ化ナトリウムなどは強い毒性を有する。特にフッ化水素は弱酸(pKa = 3.17)であるが、皮膚に接触し内部に浸透すると激しい痛みと伴に組織が破壊され、極めて危険である。

水との反応 2F2 + 2H2O → 4HF + O2
2F2 + H2O → 2HF + OF2
フッ素の生成反応 K2[MnF6] + 2SbF5 → 2K[SbF6] + MnF4
2MnF4 → 2MnF3 + F2
フッ化水素とガラスとの反応 SiO2 + 6HF → H2[SiF6] + 2H2O

自然界における存在

 最も普通に見られるフッ素を含む鉱物は蛍石CaF2であり、これは紫外線および熱により蛍光を発し、正八面体にへき解する立方晶系の結晶であり、モースの硬度計で4度と定義される。また魚眼石KCa4(Si4O10)2(F,OH)・8H2O、フッ素燐灰石Ca5F(PO4)3、氷晶石Na3[AlF6]およびトパーズAl2SiO4(F,OH)2などにも含まれ、トパーズはモースの硬度計で8度と定義される。
 南極周辺海域に生息するオキアミはタンパク資源として注目されたことがあるが、特に甲殻部分に多量のフッ素を含有し肉部にも高濃度含まれることから、食用としては不適当という警告が出されている。
蛍石 アメリカイリノイ州産
魚眼石 インド産

ブルートパーズ(黄玉) ブラジル産

工業的用途

 フッ化カルシウムは鉱石の融剤として用いられ、氷晶石はアルミニウムの融解電解用に用いられる。フッ化水素はガラスを腐食するため、曇りガラスおよびガラスの目盛り付けなどに用いられる。
 微量のフッ化物イオンは骨や歯を形成するヒドロキシアパタイトCa5(OH)(PO4)3中のヒドロキシル基の一部をフッ素に置換し、歯を丈夫にするといわれ、飲料水にフッ化ナトリウムが添加されたり、歯磨き粉にモノフルオロリン酸ナトリウムNa2PO3Fが添加されているものがあるが、許容濃度を超えないようにする注意が必要である。
 テトラフルオロエチレンを付加重合させることにより製造されるテフロン樹脂は、耐熱性が高く鍋およびフライパンなどの表面加工に用いられる。クロロフルオロカーボンCCl3Fはフロンと呼ばれ、腐食性が少なく安定な物質であるため、エアコンおよび冷蔵庫などの冷媒として広く用いられてきたが、排出されるフロンガスはオゾン層破壊の原因となるとされ、1987年に国連環境計画プロジェクトUNEPでオゾン層保護条約議定書が採択され、使用が規制された。
 トリフルオロメタンスルホン酸CF3SO3Hは超強酸の一種であるが、テフロン樹脂にフルオロスルホ基が結合した、Nafion樹脂は耐強塩基性および耐熱性をもち、電解による水酸化ナトリウム製造時のイオン交換膜および、燃料電池の固体電解質などに用いられる。

主な化合物

化合物中のフッ素の酸化数は-1、分子性化合物では原子価は1である。

HF フッ化水素 Hydrogen Fluoride
OF2 二フッ化酸素 Oxygen Difluoride



電子配置
1s22s22p5
[He]2s22p5
第一イオン化エネルギー
1681.05 kJ/mol
17.422 eV
電子親和力
327.86 kJ/mol
3.399 eV
密度
0.001696 g/cm3 (0℃, 1 atm)
結晶格子
 格子( ) a= nm
熱容量Cp(定圧比熱)25℃
31.30 J/mol K (0.1969 cal/g K)
融点
-219.62℃
沸点
-188.14℃
地殻中存在比
625 ppm
海水中存在比
1.4 ppm
大気中存在比
 
宇宙存在比(Si=106)
843


同位体
核種
相対質量
スピンパリティー
半減期
天然存在比
壊変
17F

17.002095237

5/2+
1.075 min
-
β+
18F

18.000937956

1+
1.830 hr
-
β+96.9, EC3.1
19F

18.998403224

1/2+
stable
100.00%
-
20F

19.999981315

2+
11.163 sec
-
β-


n
H
He
Li
Be
B
C
N
O
F
Ne
Na
Mg
Al
Si
P
S
Cl
Ar
K
Ca
Sc
Ti
V
Cr
Mn
Fe
Co
Ni
Cu
Zn
Ga
Ge
As
Se
Br
Kr
Rb
Sr
Y
Zr
Nb
Mo
Tc
Ru
Rh
Pd
Ag
Cd
In
Sn
Sb
Te
I
Xe
Cs
Ba
Hf
Ta
W
Re
Os
Ir
Pt
Au
Hg
Tl
Pb
Bi
Po
At
Rn
Fr
Ra
Rf
Db
Sg
Bh
Hs
Mt
Ds
Rg
Uub
Uut
Uuq
Uup
Uuh
Uus
Uuo
La
Ce
Pr
Nd
Pm
Sm
Eu
Gd
Tb
Dy
Ho
Er
Tm
Yb
Lu
Ac
Th
Pa
U
Np
Pu
Am
Cm
Bk
Cf
Es
Fm
Md
No
Lr



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