性質および化学反応
無色無臭の空気よりやや重たい気体で、単原子分子として存在し安定な化学結合は形成しない。不活発で反応しない元素であることから、ギリシャ語の怠け者を意味するArgosから命名された。包接化合物として水和物Ar·5.75H2Oが知られ、これは水分子の水素結合による構造の十二面体および十四面体型間隙にアルゴン原子が入り込んだものである。また放電管の中でイオン化させ、気相反応によりAr2+およびArH+などの不安定な化学種が生成する。また7.5 Kの極低温で不安定な化学種であるフッ化水素付加物HArFが得られているが、おそらく非常に弱い塩基であると考えられるアルゴン原子の非共有電子対にプロトンが付加したものとみなせる物質であろう。
18族元素は不活性ガス、貴ガスまたは希ガスと呼ばれ、空気中に少量存在するガスという意味であるが、太陽大気など宇宙存在度では決して稀な存在ではなく、むしろ多量に存在している。
1785年にH.Cavendishは空気中に電気火花を通し酸素および窒素を反応させて酸化窒素としてアルカリ水溶液に吸収させた後に少量の気体が残ることを報告した。1894年J.W.S.Rayleighは、空気から酸素および二酸化炭素を除去した気体と、化学反応により得られた窒素ガスとの間に若干の密度の差があることを見出し、Cavendishの方法で空気中から不活性ガスを分離し、アルゴンの発見に至った。
TIG溶接用アルゴンガスボンベ
自然界における存在
地球大気中でのアルゴンの存在度は0.934vol%と他の希ガス元素の存在度と比較して格段に高い。これは岩石中に含まれるカリウムの同位体である40Kの軌道電子捕獲ECにより生成した40Arが地質時代を通じて蓄積されてきたからである。このため地球上でのアルゴンの同位体比は40Arが圧倒的に高い。正長石を多量に含む花崗岩などの岩石中に封じ込められたガスでは、さらに比率は高くなる。しかし宇宙、特に恒星の大気中では太陽を例に挙げると36Arが84.167%、38Arが15.808%を占め、40Arは0.025%に過ぎない。すなわち太陽大気中におけるアルゴンの原子量は36.284となる。
40Kの軌道電子捕獲 |
40K + e- → 40Ar + ν |
大気中に最も多く存在する希ガスのアルゴン
工業的用途
希ガス元素として最も多量に存在するため、最も安価な不活性ガスとしての需要があり、灼熱下のフィラメントを酸化から保護するために、電球に封入されている。またTIG溶接はアルミニウムおよびチタンなど酸化皮膜を形成しやすい金属に対し、酸化防止の目的でアルゴンガスを吹き付けながらアークを飛ばして行う。
アルカリ金属およびアルカリ土類金属の塩類の融解電解による製造、およびクロール法によるチタンの製造など、酸素を嫌う反応はアルゴンなど不活性ガス雰囲気下で行われる。
主な化合物
不安定な化合物あるいは化学種がいくつか知られる。
HArF |
フッ化水素化アルゴン |
Argon Fluorohydride |
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