性質および化学反応

　銀灰色のやわらかい金属元素であるが、空気中では内部まで酸化が進行するため、灯油中に保存する。塩酸とは表面に不溶性の塩化タリウムTlClを生成し反応しにくいが、希硫酸とは徐々に反応し、粉末は水に懸濁させて空気を吹き込むと徐々に溶解して水酸化タリウム溶液となる。
　他の１３属元素とは異なり１価の化合物を形成する傾向が強く、これは6s軌道の準閉殻性によるものである。このため、化合物はカリウムおよび銀との類似性を示す。水酸化タリウムは水溶性で塩基性が強いがアルカリ金属よりは弱い。またハロゲン化物TlCl，TlBr，TlIおよび硫化物Tl₂Sの水に対する溶解度は小さい。タリウムの毒性は必須元素であるカリウムとイオン半径が近いことも関係している。緑色の炎色反応を示す。

水中での空気酸化

4Tl + 2H₂O + O₂ → 4Tl⁺ + 4OH^-

タリウムの単体

自然界における存在

　黄鉄鉱などの硫化鉱に硫化物としてわずかに含まれるか、長石中のカリウムイオンの一部を置換して存在している。このため玄武岩のような苦鉄質岩よりも花崗岩中での濃度が高くなっている。ヒ素およびセレンなどと結合した鉱物も存在するが稀である。

工業的用途

　化合物は毒性が強いため殺鼠剤および殺虫剤に用いられていたが、現在日本では使用が禁止されている。臭化タリウムは赤外線スペクトル測定用のセルおよび赤外線装置の窓などに用いられる。8.55 mol％のタリウムを含む水銀との合金は、-59℃の共融点を示し、低温での温度測定に用いられる。

主な化合物

化合物中のタリウムの酸化数には+1, +3などが存在するが+1の方が安定である。

Tl₂O	酸化タリウム(Ⅰ)	Thallium(Ⅰ) Oxide
TlOH	水酸化タリウム(Ⅰ)	Thallium(Ⅰ) Hydroxide
Tl₂SO₄	硫酸タリウム(Ⅰ)	Thallium(Ⅰ) Sulfate
CH₃COOTl	酢酸タリウム(Ⅰ)	Thallium(Ⅰ) Acetate
TlNO₃	硝酸タリウム(Ⅰ)	Thallium(Ⅰ) Nitrate
TlCl	塩化タリウム(Ⅰ)	Thallium(Ⅰ) Chloride

電子配置	1s²2s²2p⁶3s²3p⁶3d¹⁰4s²4p⁶4d¹⁰4f¹⁴5s²5p⁶5d¹⁰6s²6p¹ [Xe]4f¹⁴5d¹⁰6s²6p¹
第一イオン化エネルギー	589.354 kJ/mol	6.108 eV
電子親和力	19 kJ/mol	0.2 eV

密度	11.85 g/cm³ (20℃)
結晶格子	六方最密充填格子(hcp)　a=3.456Å, c=5.525Å
熱容量Cp（比熱）25℃	26.32 J/mol K (0.0308 cal/g K)
融点	303.5℃
沸点	1473℃

地殻中存在比	0.5 ppm
海水中存在比	0.015 ppb
大気中存在比	-
宇宙存在比(Si=10⁶)	0.184

同位体
核種	相対質量	スピンパリティー	半減期	天然存在比	壊変
²⁰⁰Tl	199.970962672	2^-	1.09 d	-	EC99.65, β⁺0.35
²⁰¹Tl	200.970818891	1/2⁺	3.038 d	-	EC
²⁰²Tl	201.972105808	2^-	12.23 d	-	EC
²⁰³Tl	202.972344220	1/2⁺	stable	29.524％	-
²⁰⁴Tl	203.973863522	2^-	3.78 yr	-	β^-97.43, EC2.57
²⁰⁵Tl	204.974427541	1/2⁺	stable	70.476％	-
²⁰⁶Tl	205.97611032	0^-	4.199 min	(1.1×10^-20％)	β^-
²⁰⁷Tl	206.977419429	1/2⁺	4.77 min	(4.5×10^-16％)	β^-
²⁰⁸Tl	207.982018700	5⁽⁺⁾	3.053 min	(2.7×10^-15％)	β^-
²⁰⁹Tl	208.985358952	(1/2⁺)	2.161 min	-	β^-
²¹⁰Tl	209.990073689	(5⁺)	1.30 min	(5.6×10^-19％)	β^-, β^-n0.007

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