性質および化学反応

 無色無臭の気体元素であり常温常圧では二原子分子として存在し、水に溶けにくい。室温で最も密度の低い気体で、風船に入れると大気中で浮かぶ。亜鉛に希硫酸を加えるなどイオン化傾向の大きい金属を希酸に溶解することにより発生する。遷移金属の多くは水素ガスを吸蔵し、特にパラジウムは原子比にして約3/4までの水素を吸蔵する。金属に吸蔵された水素はイオン化して金属の結晶格子の間隙に入り込み電子は自由電子に加わる。
 水素分子には二個の水素原子核の合成スピンがS=1のオルト水素とS=0のパラ水素が存在し、極低温では平衡状態においてエネルギー的に1410 J/molだけ低いパラ水素が大部分を占めるが、室温付近より高温ではオルト水素が約75%を占めるようになる。またオルト水素とパラ水素の相互変換速度は極めて遅く、平衡に達するまで数千時間以上を要する。
 化学的性質として水素はフッ素とは常温で激しく反応し、酸素および塩素との混合物は点火により爆発的に反応する。ヨウ素および窒素との混合物は生成物との平衡状態になる。高温でリチウムおよびカルシウムなどと直接反応して水素化物を生成する。これらはヘリウムの電子配置に等しい水素化物イオンH-を含み、水素化リチウムを融解電解すると陽極で水素化物イオンが酸化され水素ガスが発生する。
 水素は他の非金属元素と異なり、安定な陽イオンである水素イオンH+を生成しやすいが、これはプロトン(陽子)と呼ばれ、イオン半径が極めて小さく原子核の半径に相当し、通常は非共有電子対を持つ分子に捕捉され、水溶液中ではオキソニウムイオンH30+として存在する。Brφnstedの酸・塩基反応はプロトンの移動反応である。

亜鉛と希硫酸の反応 Zn + H2SO4 → ZnSO4 + H2
水素と酸素の反応 2H2(g) + O2(g) → 2H2O(l) ΔH °= -571.66kJ
水素と塩素の反応 H2 + Cl2 → 2HCl ΔH °= -184.61kJ
水素とヨウ素の平衡 H2(g) + I2(g) 2HI(g) K = 6.2×102
水素と窒素の平衡 3H2 + N2 2NH3 K = 5.8×105
カルシウムとの反応 Ca + H2 → CaH2 ΔH °= -186.2kJ

水素ボンベ
亜鉛と希硫酸との反応

自然界における存在

 単体の水素分子としては大気中に0.5vol ppm含まれるが、大部分は水として、海水、陸水、大陸氷河および水蒸気などとして存在する。さらに地下水として水脈を成したり、地殻およびマントルでは岩石中の間隙水や結晶水として存在し、この総量は全海水の何倍にも及ぶといわれている。また生物の組織を構成する有機物の成分元素でもある。
 大気圏上部の熱圏では水分子が解離することにより生成した水素は、分子量が小さいため高い分子運動速度ををもち、一部が地球の脱出速度を超えるため、宇宙に散逸する。その一方で流星として地球に降り注ぎ、もたらされる物質は石質隕石および隕鉄よりも氷隕石が圧倒的に多いと推定される。
 恒星の大気中に最も多く存在する元素で、太陽では91atom%を占めプラズマ状態で存在し、核融合のエネルギー源となっている。木星型惑星では大気の主成分を成し、惑星内深部では100 GPa以上の圧力下で金属水素を生じていると推定されている。
西条市嘉母神社の名水「うちぬき」
霧氷 北海道美瑛町

工業的用途

 単体は最も軽い気体であるため、風船につめ気象観測機器であるレーウィンゾンデを打ち上げ、高層気象観測に利用されている。かつてはドイツでは水素ガスをつめた飛行船「ヒンデンブルグ号」の定期航路があったが、着陸時に水素に引火し大惨事となったため、しばらく飛行船は姿を消し、現在ではヘリウムに取って代わられるようになった。
 主に不飽和脂肪酸から構成される魚油および植物油に、ニッケルを触媒として水素を添加すると飽和脂肪酸の比率が高くなり、融点が高くなるため硬化油と呼ばれ、マーガリンなどに利用される。またハーバー法によるアンモニア合成、および塩化水素などの合成原料として用いられる。石油の脱硫および脱硝は水素ガスを反応させて、硫化水素およびアンモニアとして脱離させることにより行われる。
 水素の燃焼による発熱量は高く、排気ガスも水蒸気しか出さないため燃料としての開発が行われている。水素と酸素を電極上で反応させることにより起電力を発生させる燃料電池は、効率の高い動力源として開発が進行中であるが電極材料などのコストが課題であり、さらに水素は現在では石油の分解およびコークスと水蒸気との反応により製造されており、結局二酸化炭素の排出につながることなどの問題を抱えている。

主な化合物

 共有結合性化合物では一般に水素の原子価は1であり、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の水素化物中では1価の陰イオンH-として存在する。

H2O Water
LiH 水素化リチウム Lithium Hydride



電子配置
1s1
第一イオン化エネルギー
1312.040 kJ/mol
13.598 eV
電子親和力
72.78 kJ/mol
0.754209 eV
密度
0.0000898 g/cm3(0℃, 1 atm)
結晶格子
 格子( ) a= Å
熱容量Cp(定圧比熱)25℃
28.824 J/mol K (3.4174 cal/g K)
融点
-259.14℃
沸点
-252.8℃
地殻中存在比
1400 ppm
海水中存在比
10.8%
大気中存在比
 
宇宙存在比(Si=106)
2.79×1010


同位体
核種
相対質量
スピンパリティー
半減期
天然存在比
壊変
1H

1.00782503207

1/2+
stable
99.9885%
-
2H

2.01410177785

1+
stable
 0.0115%
-
3H

3.01604927767

1/2+
12.33 yr
〜10-16
β-
4H

4.027806424

2-
1×10-22 s
-
n


n
H
He
Li
Be
B
C
N
O
F
Ne
Na
Mg
Al
Si
P
S
Cl
Ar
K
Ca
Sc
Ti
V
Cr
Mn
Fe
Co
Ni
Cu
Zn
Ga
Ge
As
Se
Br
Kr
Rb
Sr
Y
Zr
Nb
Mo
Tc
Ru
Rh
Pd
Ag
Cd
In
Sn
Sb
Te
I
Xe
Cs
Ba
Hf
Ta
W
Re
Os
Ir
Pt
Au
Hg
Tl
Pb
Bi
Po
At
Rn
Fr
Ra
Rf
Db
Sg
Bh
Hs
Mt
Ds
Rg
Uub
Uut
Uuq
Uup
Uuh
Uus
Uuo
La
Ce
Pr
Nd
Pm
Sm
Eu
Gd
Tb
Dy
Ho
Er
Tm
Yb
Lu
Ac
Th
Pa
U
Np
Pu
Am
Cm
Bk
Cf
Es
Fm
Md
No
Lr



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