性質および化学反応

　単体には各種同素体が存在し、主なものには斜方硫黄および単斜硫黄がある。いずれも環状の八原子分子からなり、黄色の固体であり結晶系が異なる。斜方硫黄は常温常圧で最も安定な状態であり、95.4℃以上では単斜硫黄が安定となり、融解した硫黄を急冷すると針状結晶として得られる。水には溶解しにくく、二硫化炭素によく溶け、ヘキサンおよびトルエンには少量溶解する。硫化ナトリウム水溶液には多硫化物イオンを生成して溶解し、水酸化ナトリウム水溶液と加熱すると、チオ硫酸ナトリウムと多硫化ナトリウムを生成して溶解する。多くの重金属と室温および高温で直接反応して硫化物を生成する。
　１６族元素は鉱石をつくる元素という意味でカルコゲンChalcogenとも呼ばれるが、一般的には酸素族元素と呼んでいる。実際に金属鉱石は酸化物および硫化物が多く、セレン化物およびテルル化物も存在する。

硫黄の燃焼	S₈(s) + 8O₂(g) → 8SO₂(g)	ΔH °= -2374.64kJ
熱水酸化ナトリウム水溶液との反応	3S₈ + 12NaOH → 2Na₂S₂O₃ + 4Na₂S₅ + 6H₂O

硫黄の単体（斜方硫黄）

自然界における存在

　主に黄鉄鉱をはじめとする硫化鉱物および石膏などの硫酸塩として存在するが、火山の硫気孔周辺に単体結晶として産出し、硫黄資源として採掘される。石油中にもヘテロ原子として含まれ、脱硫の際に多量に得られるため、現在ではこれが主として資源となっている。海水中にも硫酸イオンとして溶解している。


自然硫黄	黄鉄鉱

工業的用途

　ゴムの老化防止また品質改良のため、数％添加されている。３０％程度添加すると硬化しエボナイド樹脂となり、万年筆および絶縁材料などに用いられる。硫黄の単体としては湯の華、黒色火薬および医薬品などに用いられる。
　硫酸は、黄鉄鉱の燃焼または黄銅鉱の製錬により発生する二酸化硫黄を回収し、酸化バナジウム(Ⅴ)を触媒として空気酸化させ三酸化硫黄を製造し、濃硫酸に吸収させて発煙硫酸とした後、希硫酸で希釈して製造される。硫酸は安価な強酸であるため、金属の精錬用、蓄電池、合成洗剤、合成繊維および薬品製造用など用途が広い。

硫化鉱の燃焼による二酸化硫黄の発生
4FeS₂ + 11O₂ → 8SO₂ + 2Fe₂O₃	ΔH °= -3310.2kJ
4CuFeS₂ + 11O₂ → 8SO₂ + 4Cu + 2Fe₂O₃
接触法による硫酸の合成
2SO₂(g) + O₂(g) → 2SO₃(g) (V₂O₅触媒)	ΔH °= -197.78kJ
SO₃(g) + H₂SO₄(l) → H₂S₂O₇(s)	ΔH °= -63.9kJ
H₂S₂O₇(s) + H₂O(l) → 2H₂SO₄(l)	ΔH °= -68.5kJ

主な化合物

化合物中の硫黄の酸化数には-2，+2，+4，+6などが存在する。

H₂S	硫化水素	Hydrogen Sulfide
SO₂	二酸化硫黄（亜硫酸ガス）	Sulfur Dioxide
SO₃	三酸化硫黄	Sulfur Trioxide
H₂SO₄	硫酸	Sulfuric Acid

電子配置	1s²2s²2p⁶3s²3p⁴ [Ne]3s²3p⁴
第一イオン化エネルギー	999.5 kJ/mol	10.360 eV
電子親和力	200.41 kJ/mol	2.077120 eV

密度	2.07 g/cm³ (斜方 r.t.) 1.957 g/cm³ (単斜 20℃)
結晶格子	斜方格子　a=10.465Å, b=12.866Å, c=24.486Å
熱容量Cp（比熱）25℃	斜方 22.64 J/mol K (0.1687 cal/g K)
融点	112.8℃ (斜方) 119℃ (単斜)
沸点	444.674℃

地殻中存在比	260 ppm
海水中存在比	930 ppm
大気中存在比	0.0022wt ppm
宇宙存在比(Si=10⁶)	5.15×10⁶

同位体
核種	相対質量	スピンパリティー	半減期	天然存在比	壊変
³²S	31.972070999	0⁺	stable	94.93％	-
³³S	32.971458759	3/2⁺	stable	0.76％	-
³⁴S	33.967866902	0⁺	stable	4.29％	-
³⁵S	34.969032161	3/2⁺	87.51 d	trace	β^-
³⁶S	35.967080760	0⁺	stable	0.02％	-
³⁷S	36.971125567	7/2^-	5.05 min	-	β^-
³⁸S	37.971163317	0⁺	2.838 hr	-	β^-

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