性質および化学反応

 単体は濃赤褐色の揮発性の液体であり、塩素に似た臭気をもつ酸化作用のある物質である。水に少量溶解し部分的に不均化を起こす。ベンゼンなどの無極性溶媒には、あらゆる割合で混合する。酸化作用を示し金を含むあらゆる金属と反応する。臭化ナトリウムなどBr-を含む水溶液に塩素水および酸性で過酸化水素を加えると、酸化され臭素が生成し赤褐色を呈する。これに濃硫酸を加えると濃赤褐色の単体が分離沈殿する。
 臭素は1826年フランスのA.J.Balardにより海水から分離され発見されたとされているが、それ以前に化学者として名高いドイツのJ.F.von Liebigが製塩会社より送られてきた赤褐色の液体の分析を依頼されたのに対し、これは塩素とヨウ素の化合物に過ぎないと先入観により誤認して新元素発見の機会を逃し、後に、学生に研究者としての教訓としてこの事実を語り伝えたとのことであった。

臭化物イオンの酸化 2Br- + Cl2 Br2 + 2Cl-
水中での不均化 Br2 + H2O H+ + Br- + HBrO K = 7.2×10-9

臭素の単体

自然界における存在

 角銀鉱AgCl中の塩素が臭素に置換しBr>Clとなったものを臭銀鉱AgBrと称するが、産出は稀である。海水中には臭化物イオンBr-が少量溶存し、臭素の資源としては専ら海水が用いられる。
 チリアンパープルと呼ばれる地中海産の貝から抽出される色素、および縮緬法螺から抽出される色素は紫染めに用いられ、珍重されていた。これらはいずれも有機臭素化合物である、ジブロモインジゴという成分である。
臭銀鉱 オーストラリア産
臭化物イオンは海水中に少量含まれる

工業的用途

 臭化銀は写真フィルムの感光剤として用いられ、アイドルの写真をプロマイドと呼ぶのは臭化銀のSilver Bromideのブロマイドが変化したものである。
 単原子イオンからなるイオン結晶は赤外線に対して透明であるため、臭化カリウムは赤外線スペクトル測定のための錠剤作成に用いられる。
 臭素化合物には鎮静作用を持つものがあり、医薬品に用いられる。

主な化合物

化合物中の臭素の酸化数には-1, +1, +3, +5, +7などが存在する。

HBr 臭化水素 Hydrogen Bromide
HBrO 次亜臭素酸 Hypobromous Acid
HBrO2 亜臭素酸 Bromous Acid
HBrO3 臭素酸 Bromic Acid
HBrO4 過臭素酸 Perbromic Acid



電子配置
1s22s22p63s23p63d104s24p5
[Ar]3d104s24p5
第一イオン化エネルギー
1139.851 kJ/mol
11.814 eV
電子親和力
324.76 kJ/mol
3.364 eV
密度
3.12 g/cm3 (20℃)
結晶格子
 格子( ) a= nm
熱容量Cp(比熱)25℃
75.689 J/mol K (0.11320 cal/g K)
融点
-7.2℃
沸点
58.78℃
地殻中存在比
2.5 ppm
海水中存在比
68 ppm
大気中存在比
-
宇宙存在比(Si=106)
11.8


同位体
核種
相対質量
スピンパリティー
半減期
天然存在比
壊変
75Br

74.925776207

3/2-
1.61 hr
-
β+75.5, EC24.5
76Br

75.924541469

1-
16.2 hr
-
β+57, EC43
77Br

76.921379082

3/2-
2.38 d
-
EC99.3, β+0.7
79Br

78.918337087

3/2-
stable
50.69%
-
81Br

80.916290563

3/2-
stable
49.31%
-
82Br

81.916804119

5-
1.47 d
-
β-
83Br

82.915180421

3/2-
2.40 hr
-
β-


n
H
He
Li
Be
B
C
N
O
F
Ne
Na
Mg
Al
Si
P
S
Cl
Ar
K
Ca
Sc
Ti
V
Cr
Mn
Fe
Co
Ni
Cu
Zn
Ga
Ge
As
Se
Br
Kr
Rb
Sr
Y
Zr
Nb
Mo
Tc
Ru
Rh
Pd
Ag
Cd
In
Sn
Sb
Te
I
Xe
Cs
Ba
Hf
Ta
W
Re
Os
Ir
Pt
Au
Hg
Tl
Pb
Bi
Po
At
Rn
Fr
Ra
Rf
Db
Sg
Bh
Hs
Mt
Ds
Rg
Uub
Uut
Uuq
Uup
Uuh
Uus
Uuo
La
Ce
Pr
Nd
Pm
Sm
Eu
Gd
Tb
Dy
Ho
Er
Tm
Yb
Lu
Ac
Th
Pa
U
Np
Pu
Am
Cm
Bk
Cf
Es
Fm
Md
No
Lr



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