性質および化学反応

 銀白色の可視光線の反射率が高い金属元素であり「しろがね」と呼ばれる。電気および熱の伝導度は室温では金属元素中最大(抵抗率:1.47×10-8Ω·m, 熱伝導率:428 W/m·K, 0℃)である。融解した銀は酸素ガスを溶解し、凝固する際に酸素を放出するため金属面がアバタになる。この現象は純銀で起こりやすく、花が咲いたような状態となるため江戸時代では精製度の高い銀地金を花降銀と呼んだ。
 単体は酸素とは反応しないが、硫黄と反応して黒色の硫化銀を生成する。希塩酸および希硫酸とはほとんど反応しないが、酸化作用のある希硝酸に溶解し一酸化窒素を発生し、熱濃硫酸に溶解した場合は二酸化硫黄を発生する。王水とは表面に塩化銀の皮膜を生成し、反応が停止する。酸素の存在下でシアン化ナトリウム水溶液に溶解してジシアノ銀酸イオン[Ag(CN)2]-を生成する。
 銀イオンAg+は無色透明で、4d軌道がすべて満たされ典型金属的な挙動を示すが、アンモニア、ハロゲンおよび硫黄などと錯体形成しやすく親和力が強い点がアルカリ金属イオンとは異なる。AgCl,AgBr (Ksp = 5.3×10-13),AgI (Ksp = 8.5×10-17)は水に極めて難溶性で光により黒化する感光性を示す。酢酸塩CH3COOAg (Ksp = 1.91×10-3)および硫酸塩Ag2SO4 (Ksp = 1.20×10-5)などもやや難溶性である。Ag+の冷溶液にアンモニア水を加えると最初は白色の水酸化銀を少量沈殿するが、すぐに分解して褐色の酸化銀となり、過剰に加えるとジアンミン銀イオンを生成して無色溶液となる。
 Ag+は電荷が低いため比較的加水分解しにくく、(pKa = 12.0)硝酸銀水溶液はほとんど中性を示す。銀のイオン化電位+0.7992 V (Ag+/Ag)が比較的高いため、銀イオンは酸化作用が強く、光の作用により還元され易い。また皮膚と接触しても還元されて黒褐色の銀の微粒子を生成し、皮膚に沈着して皮がはがれるまでしばらく取れない。硝酸銀などを扱う場合は皮膚に接触しないように注意したほうがよい。
 元素記号Agはラテン語の銀を意味するArgentumに由来する。南米のアルゼンチンは銀の国という意味である。

希硝酸との反応 3Ag + 4HNO3 → 3AgNO3 + NO + 2H2O
熱濃硫酸との反応 2Ag + 3H2SO4 → 2AgHSO4 + SO2 + 2H2O
シアン化ナトリウム水溶液との反応 4Ag + 8NaCN + O2 + 2H2O → 4Na[Ag(CN)2] + 4NaOH
硝酸銀水溶液とアンモニア水との反応 AgNO3aq + NH3aq + H2O → AgOH(s)↓ + NH4NO3aq
2AgOH(s) → Ag2O(s) + H2O
過剰のアンモニア水との反応 Ag2O(s) + 2NH3aq + 2NH4+aq → 2[Ag(NH3)2]+aq + H2O
銀イオンと塩化物イオンとの反応 Ag+aq + Cl-aq → AgCl(s)↓ Ksp = 1.77×10-10
塩化銀沈殿とアンモニア水との反応 AgCl(s) + 2NH3aq → [Ag(NH3)2]+aq + Cl-aq K = 3.0×10-3
銀イオンと硫化水素との反応 2Ag+aq + H2S(g) → Ag2S(s)↓ + 2H+aq Ksp = 6×10-54

銀の単体(電析による結晶)

自然界における存在

 金とは異なり単体として産出することは少なく、多くは輝銀鉱Ag2Sなどの硫化物として産出する。単体としては自然金の中に合金として含まれるが、金よりもイオン化して溶解しやすく、砂金では表面は純金に近く内部に銀が多く含まれることになる。また自然銀は輝銀鉱が酸化され硫酸銀となったものが分解して二次的に生成したものである。
 硫化鉱にも少量含まれ、銅の電解精錬の陽極泥からの副産物が生産量のかなりの部分を占めている。
自然銀
輝銀鉱(針銀鉱) メキシコ産

工業的用途

 かつては貨幣の素材としての需要が主流であり、中世から近世にかけて貿易決済用に銀貨が広く流通していたが、19世紀頃からの各国の金本位制採用以後は主に補助貨幣として使用され、1960年代に銀の工業的需要が増大してからは、わが国をはじめ各国で通用していた銀貨は姿を消していった。
 現在の銀の主要な産地はメキシコであるが、16世紀から17世紀前半にかけては日本で石見銀山を中心に高品位の鉱石が多量に産出し、最盛期には全世界の産出量の1/3にも達したといわれている。この銀は銀山街道を通り尾道から瀬戸内海を船で運搬され、丁銀などに鋳造されて、主に上方(大阪)で商取引に用いられ、海外にも輸出されていた。幕府は銀山および街道筋の宿場町を天領としていた。その後メキシコで大規模な鉱床が発見されるが、明治時代まではわが国は世界2位の銀産国であったという。
 金属としては貴金属として宝飾用、電気抵抗が低いため電子部品の配線、およびメッキ用に用いられる。臭化銀は光により変化する性質を利用して、写真フイルムの感光剤に用いられる。近年はデジタルカメラが主流となってきたため、銀塩写真は本格的な写真家を対象とした一部の需要のみとなってしまった。ヨウ化銀は細かい粒子を形成するため、人工雨を降らせるため、大気中にヨウ化銀を撒き、氷の結晶成長の核とさせる試みがなされたことがある。銀は極微量でも強い殺菌作用を示すため、抗菌材料としても用いられる。
 銀-塩化銀電極は標準酸化還元電位が+0.2222 VでありpHメーター、および酸化還元電位測定の参照電極として用いられる。
丁銀·豆板銀
銀貨

石見銀山遺跡 島根県大田市大森町
石見銀山 清水谷製錬所跡

旧銀山街道宿場町 広島県府中市上下町

主な化合物

化合物中では銀原子の酸化数は+1をとることが多い。

Ag2O 酸化銀 Silver Oxide
Ag2S 硫化銀 Silver Sulfide
AgCl 塩化銀 Silver Chloride
AgBr 臭化銀 Silver Bromide
AgI ヨウ化銀 Silver Iodide
Ag2SO4 硫酸銀 Silver Sulfate
AgNO3 硝酸銀 Silver Nitrate

硝酸銀



電子配置
1s22s22p63s23p63d104s24p64d105s1
[Kr]4d105s1
第一イオン化エネルギー
730.99 kJ/mol
7.576 eV
電子親和力
125.6 kJ/mol
1.302 eV
密度
10.50 g/cm3 (20℃)
結晶格子
面心立方格子(fcc) a=4.0862Å
熱容量Cp(比熱)25℃
25.351 J/mol K (0.05617 cal/g K)
融点
961.93℃
沸点
2162℃
地殻中存在比
0.07 ppm
海水中存在比
3×10-3 ppb
大気中存在比
-
宇宙存在比(Si=106)
0.486


同位体
核種
相対質量
スピンパリティー
半減期
天然存在比
壊変
105Ag

104.906528661

1/2-
41.29 d
-
EC>99, β+
107Ag

106.905096820

1/2-
stable
51.839%
-
108mAg

107.906073195

6+
418 yr
-
EC+β+91.7, IT8.3
109Ag

108.904752292

1/2-
stable
48.161%
-
111Ag

110.905291157

1/2-
7.45 d
-
β-


n
H
He
Li
Be
B
C
N
O
F
Ne
Na
Mg
Al
Si
P
S
Cl
Ar
K
Ca
Sc
Ti
V
Cr
Mn
Fe
Co
Ni
Cu
Zn
Ga
Ge
As
Se
Br
Kr
Rb
Sr
Y
Zr
Nb
Mo
Tc
Ru
Rh
Pd
Ag
Cd
In
Sn
Sb
Te
I
Xe
Cs
Ba
Hf
Ta
W
Re
Os
Ir
Pt
Au
Hg
Tl
Pb
Bi
Po
At
Rn
Fr
Ra
Rf
Db
Sg
Bh
Hs
Mt
Ds
Rg
Uub
Uut
Uuq
Uup
Uuh
Uus
Uuo
La
Ce
Pr
Nd
Pm
Sm
Eu
Gd
Tb
Dy
Ho
Er
Tm
Yb
Lu
Ac
Th
Pa
U
Np
Pu
Am
Cm
Bk
Cf
Es
Fm
Md
No
Lr



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