性質および化学反応

 青みを帯びた銀灰色の軟らかい金属元素で、古くから用いられており「あおがね」ともいう。元素記号はラテン語の鉛を意味するPlumbumに由来する。単体は軟らかく爪でも傷がつけられ、大きな鉛塊は自重により変形する。
 空気中で徐々に酸化され、表面は青灰色の酸化物皮膜で覆われ、湿った空気中では塩基性炭酸鉛などを生じ、灰白色の粉を吹いたようになる。希塩酸および希硫酸とは表面に難溶性の塩を生成するため反応しにくい。酸化作用のある硝酸には溶解し、空気中では酢酸にも徐々に溶解する。熱濃水酸化ナトリウムとも徐々に反応する。

希硝酸との反応 3Pb + 8HNO3 → 3Pb(NO3)2 + 2NO + 4H2O
鉛イオンと塩化物イオンとの反応 Pb2+aq + 2Cl-aq → PbCl2(s)↓ Ksp = 1.71×10-5
鉛イオンと硫酸イオンとの反応 Pb2+aq + SO42-aq → PbSO4(s)↓ Ksp = 1.82×10-8
鉛イオンと硫化水素との反応 Pb2+aq + H2S(g) → PbS(s)↓ + 2H+aq Ksp = 7.8×10-33
水酸化鉛と過剰のアルカリとの反応 Pb(OH)2(s) + 2OH-aq → [Pb(OH)4]2-aq
硫酸鉛と過剰のアルカリとの反応 PbSO4(s) + 4OH-aq → [Pb(OH)4]2-aq + SO42-aq

鉛の単体

自然界における存在

 鉛は硫化物として存在することが多く、最も普通に見られるのは金属光沢が強く、直方体に割れやすい方鉛鉱PbSである。これが酸化されて生成する二次的な鉱物に、無色透明の硫酸鉛鉱PbSO4がある。火成岩中ではイオン半径の近いバリウムに似た挙動をし、正長石中のカリウムの一部を置換して存在している。
 鉛の同位体のうち206Pbは238Uをスタートとするウラン系列、207Pbは235Uをスタートとするアクチニウム系列、208Pbは232Thをスタートとするトリウム系列の最終壊変生成物であるため、天然同位体比は産地により多少異なり、原子量にも変動がある。また放射性同位体の210Pbおよび214Pbはウラン系列、211Pbはアクチニウム系列、212Pbはトリウム系列の中間壊変生成物として定常的に存在する。
方鉛鉱 アメリカミズーリ州産
硫酸鉛鉱 モロッコ産

工業的用途

 古来、金および銀の製錬は、鉱石に鉛を加えて融解し、金および銀を溶かし込んだ貴鉛に空気を吹きつけながら鉛を酸化させ金および銀を残すという、灰吹法が行われていた。ここでは多量の酸化鉛が生成し、製錬従事者の中にはかなりの鉛中毒者が出たものと思われる。古代ローマ帝国では、当時冷蔵設備が無かったため、ワインはすぐに酸敗し、鉛の鍋で加熱処理をすると中和される上に、甘味を有する酢酸鉛を生じて味がまろやかになるという方法が発見された。帝国が滅びたのは鉛中毒患者が多発したためであると言われている。
 単体は薬品に対する耐食性が比較的高いため、かつて化学実験室などの流しは鉛板で覆われていた。しかしここに酸などを流すと、廃水基準に抵触するのに充分な濃度の鉛が溶出するため、最近では使用されなくなった。水道管にも用いられ、表面に不溶性の塩基性炭酸鉛Pb3(OH)2(CO3)2を形成するために安全であるといわれたが、近年は使用されなくなってきた。製錬が容易で金属の中では価格は鉄に次いで安く重い金属であるため「重り」だけとしての用途があり、釣具の重り、筋力強化用のウェイトなどに用いられる。鉛は軟らかく紙にこすり付けると線が引けるため、かつては鉛円板が文字を書くために使われていた。ここから「鉛筆」という言葉が生まれた。現在の鉛筆の芯は鉛ではなく炭素(黒鉛)である。各種低融点合金の成分であり、ヒューズおよび”はんだ”などに用いられる。
 テトラエチル鉛Pb(C2H5)4はエンジン内のノッキングを防ぐために効果を発揮し、ガソリンに添加されていたが、鉛公害が深刻となったため使用が禁止された。
 鉛の特性を最も効果的に利用したものは鉛蓄電池である。これは両極に鉛および鉛の化合物を用いたもので、起電力は約2.1 Vである。希硫酸を電解液に使用した鉛蓄電池は内部抵抗が低く高電流での使用が可能であり、材料の価格が安くリサイクルもし易いため、自動車のバッテリーに広く用いられている。

鉛蓄電池の充放電反応
負極 Pb + SO42- PbSO4 + 2e- E °= -0.3555 V
正極 PbO2 + 4H++ SO42- + 2e- PbSO4 + 2H2O E °= +1.6871 V

主な化合物

化合物中の鉛の酸化数には+2, +4などが存在するが+2の方が安定である。

PbSO4 硫酸鉛(Ⅱ) Lead(Ⅱ) Sulfate
PbCrO4 クロム酸鉛(Ⅱ) Lead(Ⅱ) Chromate
Pb(N3)2 アジ化鉛(Ⅱ) Lead(Ⅱ) Azide
Pb(CH3COO)2 酢酸鉛(Ⅱ) Lead(Ⅱ) Acetate
PbCl2 塩化鉛(Ⅱ) Lead(Ⅱ) Chloride
PbO2 酸化鉛(Ⅳ) Lead(Ⅳ) Oxide



電子配置
1s22s22p63s23p63d104s24p64d104f145s25p65d106s26p2
[Xe]4f145d106s26p2
第一イオン化エネルギー
715.60 kJ/mol
7.416 eV
電子親和力
35.1 kJ/mol
0.364 eV
密度
11.35 g/cm3 (20℃)
結晶格子
面心立方格子(fcc) a=4.9502Å
熱容量Cp(比熱)25℃
26.44 J/mol K (0.0305 cal/g K)
融点
327.5℃
沸点
1750℃
地殻中存在比
13 ppm
海水中存在比
0.003 ppb
大気中存在比
-
宇宙存在比(Si=106)
3.15


同位体
核種
相対質量
スピンパリティー
半減期
天然存在比
壊変
202Pb

201.972159133

0+
5.25×104 yr
-
EC
203Pb

202.973390521

5/2-
2.161 d
-
EC
204Pb

203.973043589

0+
>1.4×1017 yr
 1.4%
(α)
205Pb

204.974481755

5/2-
1.53×107 yr
-
EC
206Pb

205.974465278

0+
stable
24.1%
-
207Pb

206.975896887

1/2-
stable
22.1%
-
208Pb

207.976652071

0+
stable
52.4%
-
209Pb

208.98109012

9/2+
3.253 h
-
β-
210Pb

209.984188527

0+
22.3 yr
(1.4×10-9%)
β->99.9, α1.9×10-6
211Pb

210.988736964

9/2+
36.1 m
(2×10-16%)
β-
212Pb

211.991897543

0+
10.64 hr
(9×10-14%)
β-
214Pb

213.999805408

0+
26.8 m
(3×10-15%)
β-


n
H
He
Li
Be
B
C
N
O
F
Ne
Na
Mg
Al
Si
P
S
Cl
Ar
K
Ca
Sc
Ti
V
Cr
Mn
Fe
Co
Ni
Cu
Zn
Ga
Ge
As
Se
Br
Kr
Rb
Sr
Y
Zr
Nb
Mo
Tc
Ru
Rh
Pd
Ag
Cd
In
Sn
Sb
Te
I
Xe
Cs
Ba
Hf
Ta
W
Re
Os
Ir
Pt
Au
Hg
Tl
Pb
Bi
Po
At
Rn
Fr
Ra
Rf
Db
Sg
Bh
Hs
Mt
Ds
Rg
Uub
Uut
Uuq
Uup
Uuh
Uus
Uuo
La
Ce
Pr
Nd
Pm
Sm
Eu
Gd
Tb
Dy
Ho
Er
Tm
Yb
Lu
Ac
Th
Pa
U
Np
Pu
Am
Cm
Bk
Cf
Es
Fm
Md
No
Lr



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