性質および化学反応

 単体には同素体が存在し、ダイヤモンドは無色透明の物質中最も硬い立方晶系の結晶であり、モースの硬度計で10度と定義され、炭素原子は4配位のsp3混成軌道となっている。黒鉛は石墨またはグラファイト(Graphite)とも呼ばれ、軟らかく電気の良導体であり、六方晶系をとる灰黒色の固体である。黒鉛中では炭素原子は3配位のsp2混成軌道であり、六角形平面格子を形成し、層状構造をとっている。このほか直鎖状2配位のsp混成軌道の炭素原子からなる同素体であるカルビンも存在するが、安定な状態では得られておらず詳しい物性についてはよく判っていない。
 また、フラーレンと呼ばれる黒紫色固体はススの中から見出され、分子構造はサッカーボール型の60原子分子C60である。フラーレン分子が筒状に変化したカーボンナノチューブはチューブ内に各種分子を取り込むことが可能であり、微小電子デバイスとしての可能性を秘めている。
 ダイヤモンドおよび黒鉛は室温で酸およびアルカリに対して極めて安定である。黒鉛は熱濃硝酸では酸化され、メリト酸C6(COOH)6を生成する。高温では空気中で燃焼して二酸化炭素を生成する。
 炭素原子は共有結合により多種多様の分子の骨格を成し、天然に生体物質として存在するもの、および合成されたものなど1千万種類を超える化合物が存在し、これらは有機化合物と呼ばれる。

炭素の燃焼 C(s) + O2(g) → CO2(g) ΔH °= -393.51kJ
炭素の不完全燃焼 C(s) + CO2(g) → 2CO(g) ΔH °= +172.4kJ
カルシウムアセチリド(カーバイド)の製造 CaCO3 + 4C → CaC2 + 3CO
カルシウムアセチリドの加水分解 CaC2 + 2H2O → C2H2 + Ca(OH)2

炭素の単体

自然界における存在

 単体としては黒鉛およびダイヤモンドの形で産出し、このうちダイヤモンドは地下数百kmの高圧下で生成する鉱物であるため、これが異性化して黒鉛に変化しないうちに急上昇して冷却される条件が必要で、産出は地殻変動の激しい地溝帯などの地域に限られる。
 化合物として最も多量に産出するのは炭酸塩の石灰岩であり、これは太古に地上を覆っていた多量の二酸化炭素が海水中でサンゴ虫の作用あるいは化学的にカルシウムイオンと結合して固定されたものである。
 化石燃料としては炭化水素から構成される天然ガス、石油および石炭の形で産出する。石油については生物の死骸がバクテリアおよび地熱の作用により変化して生成したという生物起源説と、地球内部に元々存在していた炭素および水素が滲み出し結合して生成したとする無機起源説がある。木星型惑星にはメタンなどの炭化水素が多量に存在していることが知られ、地球にも創生当時の炭化水素が少量存在していたとしても不思議ではない。
 宇宙存在比では水素、炭素、窒素および酸素は、岩石を構成するマグネシウム、ケイ素および鉄などよりはるかに多く、存在比が生物を構成する元素に近いことは偶然であるとは思えない。
ダイヤモンド原石 ブラジル産
黒鉛(グラファイト) メキシコ産

工業的用途

 黒鉛は鉛筆の芯、坩堝およびアルミニウム製造における融解電解用の電極に用いられる。乾電池の陽極には炭素棒が用いられ、リチウム二次電池は黒鉛の結晶層間にリチウムイオンが挿入されることを利用したものである。炭素繊維を樹脂などで固めたカーボンはスポーツ用品などに用いられる。ダイヤモンドは無色透明で傷が少なく美しいものは宝石に用いられるが、通常のものはボーリング用の切削金具、ガラス切り、研磨材およびレコード針として用いられる。

主な化合物

化合物中の炭素の酸化数には-4, +2, +4などが存在するが、有機化合物では原子価は多くは4である。

CO 一酸化炭素 Carbon Monoxide
CO2 二酸化炭素(炭酸ガス) Carbon Dioxide
CH4 メタン Methane
C2H6 エタン Ethane
C2H4 エテン(エチレン) Ethene (Ethylene)
C2H2 エチン(アセチレン) Ethyne (Acetylene)
CH3OH メタノール(メチルアルコール) Methanol (Methyl Alcohol)
C2H5OH エタノール(エチルアルコール) Ethanol (Ethyl Alcohol)
HCHO メタナール(ホルムアルデヒド) Methanal (Formaldehyde)
CH3CHO エタナール(アセトアルデヒド) Ethanal (Acetaldehyde)
HCOOH メタン酸(ギ酸) Methanoic Acid (Formic Acid)
CH3COOH エタン酸(酢酸) Ethanoic Acid (Acetic Acid)
C6H6 ベンゼン Benzene



電子配置
1s22s22p2
[He]2s22p2
第一イオン化エネルギー
1086.44 kJ/mol
11.260 eV
電子親和力
121.78 kJ/mol
1.2629 eV
密度
2.25 g/cm3 (黒鉛 20℃)
3.513 g/cm3 (ダイヤモンド 25℃)
結晶格子
graphite六方格子( ) a=2.456Å, c=6.696Å
diamondダイヤモンド格子( ) a=3.567Å
熱容量Cp(比熱)25℃
graphite 8.527 J/mol K (0.1697 cal/g K)
diamond 6.113 J/mol K (0.1216 cal/g K)
融点
3600℃
沸点
3370℃(昇華)
地殻中存在比
200 ppm
海水中存在比
28 ppm
大気中存在比
150wt ppm
宇宙存在比(Si=106)
1.01×107


同位体
核種
相対質量
スピンパリティー
半減期
天然存在比
壊変
10C

10.016853228

0+
19.255 sec
-
β+
11C

11.011433613

3/2-
20.39 min
-
β+99.76, EC0.24
12C

12.00000000000 (定義)

0+
stable
98.93%
-
13C

13.00335483778

1/2-
stable
 1.07%
-
14C

14.00324198870

0+
5730 yr
1.2×10-10
β-
15C

15.010599256

1/2+
2.449 sec
-
β-
16C

16.014701252

0+
747 ms
-
β-


n
H
He
Li
Be
B
C
N
O
F
Ne
Na
Mg
Al
Si
P
S
Cl
Ar
K
Ca
Sc
Ti
V
Cr
Mn
Fe
Co
Ni
Cu
Zn
Ga
Ge
As
Se
Br
Kr
Rb
Sr
Y
Zr
Nb
Mo
Tc
Ru
Rh
Pd
Ag
Cd
In
Sn
Sb
Te
I
Xe
Cs
Ba
Hf
Ta
W
Re
Os
Ir
Pt
Au
Hg
Tl
Pb
Bi
Po
At
Rn
Fr
Ra
Rf
Db
Sg
Bh
Hs
Mt
Ds
Rg
Uub
Uut
Uuq
Uup
Uuh
Uus
Uuo
La
Ce
Pr
Nd
Pm
Sm
Eu
Gd
Tb
Dy
Ho
Er
Tm
Yb
Lu
Ac
Th
Pa
U
Np
Pu
Am
Cm
Bk
Cf
Es
Fm
Md
No
Lr



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