性質および化学反応

 銀白色のやわらかい金属元素である。貴金属の一種で一般にはプラチナと呼ばれる。酸およびアルカリに対する耐食性は高いが、王水および塩素水に徐々に溶解しヘキサクロロ白金(Ⅳ)酸を生成する。王水に溶解した場合ニトロシル錯体の混入が避けられないため、純粋なヘキサクロロ白金(Ⅳ)酸を合成するには塩酸酸性下で塩素水に溶解した方がよい。高温ではハロゲンと直接反応し二元化合物を生成する。
 6s電子の準閉殻性から酸化数が-2であるCs2Ptが最近、アルゴン中で白金海綿にセシウムを700℃で2日間反応させることにより合成された。1)Cs2Ptは暗赤色透明な物質であり、金属間化合物ではなくイオン結晶である可能性が高い。
 微粉末のものは白金黒と呼ばれ、水素などの気体を吸蔵し原子状にして反応活性を高めるため、触媒能を有する。
 元素名は南米の砂白金鉱の産地のRio Pintoからピントの小さな銀Platina del Pintoと呼び、小さな銀を意味するPlatinaがこの元素名の元となった。18世紀中頃の発見当時、融点の高い白金は加工することが困難で歓迎されず、偽銀として捨てられたり、砂利と伴に舗装に用いられることもあった。また密度の高い白金に金をめっきした偽金貨や偽金塊まで登場するに至った。時代が変われば価値観も変わる典型例である。
 第5および6周期の8〜10族元素のRu,Rh,Pd,Os,Ir,Ptは白金族元素と呼ばれ、いずれも貴金属として扱われている。しかし第5周期の3元素については錯体形成などの点で鉄族元素との類似性を示すこともある。

 参考文献1) A. Karpov, J. Nuss, U. Wedig, and M. Jansen, Angew. Chem. Int. Ed., 42, 4818-4821 (2003)

王水との反応 3Pt + 15HCl + 4HNO3 → 3H[PtCl5NO] + NO + 8H2O
塩素水との反応 Pt + 2Cl2 + 2HCl → H2[PtCl6]

白金の単体

自然界における存在

 天然には単体の砂白金として産出するが、他の白金族元素および鉄などを多量に含んでいる。カナダからは主に砒白金鉱PtAs2が産出する。ロシア、カナダおよび南アフリカが主な産地で、世界的には偏在している。
 北海道中央部各地の蛇紋岩および橄欖岩帯を起源とする河川でかつて採集された所謂「砂白金」と呼ばれていたものは、その大部分は実際の白金の含有率は数%以下で、主成分は白金族元素であるイリジウムとオスミウムを主体とする自然合金のイリドスミンである。ただし夕張および雨龍地区では一部、白金を主成分とするものも採集される。イリドスミンには10〜20%のルテニウムを含むものが多く、白金を主体とするものは10%程度の鉄を含むものが多い。2)また核を構成する元素と考えられるニッケルおよび銅なども少量含まれることから、白金鉱石の起源は外核-マントル境界部分であるかもしれない。
 隕鉄中にも7ppm程度含まれ、この含有率は現在採掘されている白金鉱石に匹敵するものである。宇宙存在比では鉛の約2/5程度も存在していることになる。

 参考文献2) 弥永芳子,砂白金〜その歴史と科学〜
自然白金の結晶 ロシア産

工業的用途

 微粉末は気体分子を吸着し触媒作用を持つため、白金は自動車のマフラーの排気ガス清浄触媒としての用途が最も重要である。また水素のイオン化に対し触媒作用を持ち燃料電池の電極として有用であるが、高価であるためコスト面に課題が残る。高い耐食性のため、電気分解における不溶性電極および、サイクリックボルタンメトリーなど、電気化学測定装置の電極に用いられる。また耐熱性も高く坩堝に用いられるが、高温で炭素および銀などの金属と結合するため、白金坩堝を還元炎で加熱することは避けるべきである。
 シス-ジクロロジアンミン白金(Ⅱ)cis-[PtCl2(NH3)2]はシスプラチンと呼ばれ、効能の高い抗がん剤として注目されたが、正常な細胞も破壊するなど副作用が強いため、これを如何に抑えるかが課題である。
 金属の電気抵抗は温度上昇に伴い規則的に変化するため、現在気象台およびアメダス観測所では気温の測定は白金抵抗温度計が用いられている。

主な化合物

化合物中では白金原子の酸化数は+2,+4をとることが多い。

PtO2 酸化白金(Ⅳ) Platinum(Ⅳ) Oxide
K2[PtCl4] テトラクロロ白金(Ⅱ)酸カリウム Potassium Tetrachloroplatinate(Ⅱ)
H2[PtCl6] ヘキサクロロ白金(Ⅳ)酸 Hexachloroplatinic(Ⅳ) Acid
K2[PtCl6] ヘキサクロロ白金(Ⅳ)酸カリウム Potassium Hexachloroplatinate(Ⅳ)
[Pt4(CH3COO)8] オクタアセタト四白金(Ⅱ) Octaacetatotetraplatinum(Ⅱ)

テトラクロロ白金(Ⅱ)酸カリウム
ヘキサクロロ白金(Ⅳ)酸カリウム



電子配置
1s22s22p63s23p63d104s24p64d104f145s25p65d96s1
[Xe]4f145d96s1
第一イオン化エネルギー
831.0 kJ/mol
8.61 eV
電子親和力
205.3 kJ/mol
2.128 eV
密度
21.45 g/cm3 (20℃)
結晶格子
面心立方格子(fcc) a=3.923Å
熱容量Cp(比熱)25℃
25.86 J/mol K (0.03168 cal/g K)
融点
1769℃
沸点
3827℃
地殻中存在比
0.01 ppm
海水中存在比
 ppb
大気中存在比
-
宇宙存在比(Si=106)
1.34


同位体
核種
相対質量
スピンパリティー
半減期
天然存在比
壊変
188Pt

187.959395391

0+
10.2 d
-
EC>99.9, α3×10-5
190Pt

189.959931655

0+
6.5×1011 yr
 0.014%
α, (2β+)
191Pt

190.961676661

3/2-
2.802 d
-
EC
192Pt

191.961038005

0+
stable
 0.782%
-
193Pt

192.962987401

1/2-
50 yr
-
EC
194Pt

193.962680253

0+
stable
32.967%
-
195Pt

194.964791134

1/2-
stable
33.832%
-
196Pt

195.964951521

0+
stable
25.242%
-
197Pt

196.967340182

1/2-
19.8915 hr
-
β-
198Pt

197.967892790

0+
>3.2×1014 yr
 7.163%
(2β-, α)
200Pt

199.971440677

0+
12.5 hr
-
β-
202Pt

201.97574

0+
1.8 d
-
β-


n
H
He
Li
Be
B
C
N
O
F
Ne
Na
Mg
Al
Si
P
S
Cl
Ar
K
Ca
Sc
Ti
V
Cr
Mn
Fe
Co
Ni
Cu
Zn
Ga
Ge
As
Se
Br
Kr
Rb
Sr
Y
Zr
Nb
Mo
Tc
Ru
Rh
Pd
Ag
Cd
In
Sn
Sb
Te
I
Xe
Cs
Ba
Hf
Ta
W
Re
Os
Ir
Pt
Au
Hg
Tl
Pb
Bi
Po
At
Rn
Fr
Ra
Rf
Db
Sg
Bh
Hs
Mt
Ds
Rg
Uub
Uut
Uuq
Uup
Uuh
Uus
Uuo
La
Ce
Pr
Nd
Pm
Sm
Eu
Gd
Tb
Dy
Ho
Er
Tm
Yb
Lu
Ac
Th
Pa
U
Np
Pu
Am
Cm
Bk
Cf
Es
Fm
Md
No
Lr



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