性質および化学反応

 淡赤橙色の軟らかい金属で「あかがね」と呼ばれ、空気中では酸化され表面が褐色になりやすい。湿った空気中で酸素および二酸化炭素と徐々に反応して緑青Cu2(OH)2CO3を形成する。緑青はかつて猛毒物質であると言われていたが、現在の純銅表面にできる緑青は毒性は強くないようである。昔のヒ素およびアンチモンなどを不純物として含む銅地金に生成した錆であれば毒性は強いであろう。
 希塩酸および希硫酸とはほとんど反応しないが、希硝酸と反応して溶解し一酸化窒素を発生し、濃硝酸とは反応が次第に激しくなり、二酸化窒素を発生する。熱濃硫酸と反応すると二酸化硫黄を発生して硫酸銅(Ⅱ)になる。熱濃塩酸とも徐々に反応してジクロロ銅(Ⅰ)酸イオンを生成する。ジクロロ銅(Ⅰ)酸イオンを含む水溶液を希釈すると塩化銅(Ⅰ)の白色沈殿を生成する。1価の陽イオンCu+は水溶液中で不安定で不均化しやすい。
 空気の存在下でシアン化ナトリウム水溶液およびアンモニア水と徐々に反応して錯イオンを形成して溶解する。銅(Ⅱ)イオンCu2+の水溶液にアンモニア水を加えると青白色の水酸化銅を沈殿し、さらに過剰に加えると濃青紫色のテトラアンミン銅イオンを生成して沈殿は溶解する。
 電気および熱の伝導度は室温では銀に次いで高い。(抵抗率:1.55×10-8Ω·m, 熱伝導率:403 W/m·K, 0℃)

希硝酸との反応 3Cu + 8HNO3 → 3Cu(NO3)2 + 2NO + 4H2O
濃硝酸との反応 Cu + 4HNO3 → Cu(NO3)2 + 2NO2 + 2H2O
熱濃硫酸との反応 Cu + 2H2SO4 → CuSO4 + SO2 + 2H2O
熱濃塩酸との反応 2Cu + 4HCl + 2H2O → 2[CuCl2]- + 2H+ + H2
銅(Ⅰ)イオンの不均化 2Cu+aq → Cu(s)↓ + Cu2+aq K = 1.1×106
シアン化ナトリウム水溶液との反応 4Cu + 8NaCN + O2 + 2H2O → 4Na[Cu(CN)2] + 4NaOH
アンモニア水との反応 2Cu + 8NH3 + O2 + 2H2O → 2[Cu(NH3)4]2+ + 4OH-
硫酸銅水溶液とアンモニア水との反応 CuSO4aq + 2NH3aq + 2H2O → Cu(OH)2(s)↓ + (NH4)2SO4aq Ksp = 1.5×10-20
過剰のアンモニア水との反応 Cu(OH)2(s) + 4NH3aq → [Cu(NH3)4]2+aq + 2OH-aq K = 3.4×10-8

銅の単体

自然界における存在

 硫化物として鉄と伴に存在することが多く、黄銅鉱CuFeS2および斑銅鉱Cu5FeS4などがあり、別子銅山で産出したのは黄銅鉱および含銅硫化鉄鉱である。
 黄銅鉱などが風化し酸化されると二次鉱物として胆礬CuSO4·5H2Oを生成し、この中に含まれる銅イオンが、同時に生成する緑礬FeSO4·7H2Oによる還元作用を受け、赤銅鉱Cu2Oおよび自然銅となり、また石灰岩および二酸化炭素と反応し藍銅鉱Cu2(OH)2CO3および孔雀石Cu3(OH)2(CO3)2を生成する。
黄銅鉱
自然銅 ミシガン州産

含銅硫化鉄鉱 別子銅山産

藍銅鉱(アズライト) モロッコ産
孔雀石(マラカイト) ザイール産

工業的用途

 純銅は電気抵抗が銀に次いで低いために送電線および各種電化製品に用いられる。銅板は風雨にさらされると美しい緑青を生成し、大阪城の屋根をはじめとして、神社および寺院の屋根に使用されることがある。スズを加えた合金である青銅は、鏡、仏像、銅像および寺院の梵鐘など古くから用いられてきた。ニッケルを加えた白銅は50円および100円硬貨、亜鉛を加えた黄銅は真鍮とも呼び5円硬貨および金管楽器など各種銅合金として用いられる。金管楽器を中心とした楽団をブラスバンドと呼ぶのは黄銅のBrassに由来する。
 銅族元素(金,銀,銅)は延性および展性に富み美しい光沢を有するため貨幣金属と呼ばれ、これらの合金は貨幣およびメダルの材料として広く用いられる。
 わが国はかつて世界有数の産銅国であり、銅鉱石の露頭の発見に始まり、元禄4年(1691年)に開坑された別子銅山は江戸時代から明治時代にかけて、日本の重要輸出物品としての銅を供給し続け近代化に貢献した。海面下1000 mまで掘り進んだ坑道からは坑内水の噴出が多く、胆礬(硫酸銅)を含んだこの水は一旦、箱桶の中を流しながら屑鉄と反応させ、イオン化傾向の差を利用し沈殿銅を採集した後、沈殿池で処理して排出された。

沈殿銅の析出(銅樹) Cu2+aq + Fe(s) → Cu(s)↓ + Fe2+aq

乾式製錬による粗銅の製造
マットの製造 2CuFeS2 + SiO2 + 4O2 → Cu2S + Fe2SiO4 + 3SO2
マットの酸化 Cu2S + O2 → 2Cu + SO2 ΔH °= -217.3kJ/mol

電解精錬による純銅の製造
陰極(純銅の析出) Cu2+ + 2e- → Cu
陽極(粗銅の溶解) Cu → Cu2+ + 2e-

別子銅山 鉱石の露頭(表面は褐鉄鉱に変質)
別子銅山初の坑口 歓喜間符

製錬工場から電解工場へ搬送される粗銅極板

銅銭
銅貨

主な化合物

化合物中で銅原子の酸化数は+1,+2をとることが多い。

Cu2O 酸化銅(Ⅰ)(酸化第一銅) Copper(Ⅰ) Oxide (Cuprous Oxide)
CuO 酸化銅(Ⅱ)(酸化第二銅) Copper(Ⅱ) Oxide (Cupric Oxide)
CuCl 塩化銅(Ⅰ)(塩化第一銅) Copper(Ⅰ) Chloride (Cuprous Chloride)
CuSO4·5H2O 硫酸銅(Ⅱ)五水和物(胆礬) Copper(Ⅱ) Sulfate Pentahydrate

塩化銅(Ⅰ)
硫酸銅(Ⅱ)五水和物



電子配置
1s22s22p63s23p63d104s1
[Ar]3d104s1
第一イオン化エネルギー
745.47 kJ/mol
7.726 eV
電子親和力
118.5 kJ/mol
1.228 eV
密度
8.96 g/cm3 (20℃)
結晶格子
面心立方格子(fcc) a=3.6147Å
熱容量Cp(比熱)25℃
24.435 J/mol K (0.09190 cal/g K)
融点
1084.5℃
沸点
2571℃
地殻中存在比
55 ppm
海水中存在比
0.2 ppb
大気中存在比
-
宇宙存在比(Si=106)
522


同位体
核種
相対質量
スピンパリティー
半減期
天然存在比
壊変
61Cu

60.933457821

3/2-
3.333 hr
-
β+62, EC38
63Cu

62.929597474

3/2-
stable
69.17%
-
64Cu

63.929764183

1+
12.7 hr
-
EC41, β-40, β+19
65Cu

64.927789485

3/2-
stable
30.83%
-
67Cu

66.927730314

3/2-
2.58 d
-
β-


n
H
He
Li
Be
B
C
N
O
F
Ne
Na
Mg
Al
Si
P
S
Cl
Ar
K
Ca
Sc
Ti
V
Cr
Mn
Fe
Co
Ni
Cu
Zn
Ga
Ge
As
Se
Br
Kr
Rb
Sr
Y
Zr
Nb
Mo
Tc
Ru
Rh
Pd
Ag
Cd
In
Sn
Sb
Te
I
Xe
Cs
Ba
Hf
Ta
W
Re
Os
Ir
Pt
Au
Hg
Tl
Pb
Bi
Po
At
Rn
Fr
Ra
Rf
Db
Sg
Bh
Hs
Mt
Ds
Rg
Uub
Uut
Uuq
Uup
Uuh
Uus
Uuo
La
Ce
Pr
Nd
Pm
Sm
Eu
Gd
Tb
Dy
Ho
Er
Tm
Yb
Lu
Ac
Th
Pa
U
Np
Pu
Am
Cm
Bk
Cf
Es
Fm
Md
No
Lr



周期表TOP